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大阪地方裁判所 昭和30年(ワ)1557号 判決

三和銀行

事実

原告は金額金二六五、一三〇円、振出日昭和二八年七月一七日、満期同年一〇月一四日、支払地及び振出地共に大阪市、支払場所株式会社三和銀行梅田支店、振出人被告会社代表取締役相馬千里、名宛人株式会社勝田製作所、第一裏書人右会社代表取締役森政憲なる約束手形一通の所持人であるが、これを右満期に右支払場所に於て支払のため呈示したところその支払を拒絶された。

理由

証拠によれば、訴外勝田製作所は融通手形として被告から金額金三一五、一三〇円、満期以外の手形要件記載事項は本件手形と同様の約束手形一通(以下、旧手形という)の振出貸与を受け、訴外山根を通じて旧手形の割引という形式で原告から金融を得るために、割引金を受取ることを条件として、白地裏書により旧手形を原告に譲渡することを約束して、右手形を原告に預けたところ(この際、訴外山根は、旧手形が被告よりの融通手形であることを原告に告知しなかつた)、偶々、原告は勝田製作所に対し貸金債権を有し、その担保として勝田製作所振出の約束手形を所持していたが、それが不渡りとなつていた関係上、前記旧手形を割引くことなく、一方的に右債権の担保として右旧手形を原告の手形に留置することにしたので、その後、被告会社代表取締役相馬千里、訴外樋口及び山根の三名は、交々、その手形振出の事情を原告に話して、旧手形の返還方を要望したが、原告はその要求に応ぜず、満期に支払場所に於て支払のため右手形を呈示したので、被告はやむなく、一部弁済として、金五〇、〇〇〇円を原告に交付すると共に、原告に対し前記旧手形金額から右弁済金額を控除した残額金二六五、一三〇円を手形金額とする本件手形を振出交付して旧手形を原告から回収したことが認められる。

(1)  非正当所持人の抗弁

なるほど、原告は訴外勝田製作所から割引のために預かつた本件手形を同製作所の原告に対する既存債務の担保として手許に留置して返還しなかつたことは前認定の通りで、右手形の裏書譲渡を受けたものとはいい難い。しかしながら、前認定のように、右旧手形の満期に近い頃、被告は、右旧手形の支払として、原告に対して現金五〇、〇〇〇円を支払い、手形金の残額について本件手形を交付したのであるから、被告は右弁済行為によつて原告に対して、右旧手形が勝田製作所の原告に対する既存債務の支払のために裏書譲渡されたもの、即ち原告が旧手形の正当な所持人であることを承認したものと認めることができる。そればかりでなく、少なくとも本件手形に関する限り、それが被告及び勝田製作所から原告へ正常に振出し裏書せられたものであること明らかであるから、原告は本件手形の正当な所持を取得したといわねばならない。従つて被告は旧手形の授受の際の前記の瑕疵を本件手形についての抗弁として使用できない。

(2)  悪意の抗弁

融通手形であるから手形の授受に対応する実質上の債権関係がない旨の抗弁は対価を受取らずに手形を貸与した者とこれを借受けた者間の人的関係に基く抗弁であるから、右貸与者は、貸与を受けた者から裏書によつて手形を取得した所持人に対して、右抗弁をもつて対抗することはできない。そして融通手形は元来手形貸与者の資力をもつて貸与を受けた者の信用を補強する目的のために貸借せられた手形であつて、その手形の貸与を受けた者に対して手形の割引を与える者は、手形貸与者の資力に信頼してその割引をするのであるから、所持人がその手形が融通手形であることを知つていても、そのために、手形を貸与した者の手形債務が免除されたり軽減されたりすることはない。

また手形の貸与を受けた者が貸与者の予期に反して、右手形を用いて新たな金融を受けることなく、既存の債務の担保として、債権者に手形を裏書交付しても、それは手形の通常の使用方法に従つた使用であるから、右貸与に際して、このような使途に用いることを禁止制限する特約のない限り、これをもつて手形貸与者を害する行為があつたということはできない。

右手形の貸与に際して手形の使途に制限を加える特約があつた場合にあつても、貸与を受けた者から裏書によつて手形を取得した者が貸与者を害することを知らない限り、貸与者は手形上の責任を免れることはできない。即ち、手形所持人が(1)右手形がいわゆる融通手形であること (2)手形の貸与に際しその使途に制限を加える特約のあること (3)手形が右制限に反する使途に用いられたこと、(4)右使途に手形を使用することによつて貸与者が害せられること、以上のこと全部を知つていながら、右手形を取得した時に限り、手形貸与者は自分と貸与を受けた者の間の債権債務の存在しない旨の抗弁をもつて所持人に対抗できる。

(従つて本件では抗弁不成立)

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